SAMPSON BRIDGEWOOD AND SON COMPANY
1882 July 31製
イギリス、ロントン スタフォードシャーのサンプソン・ブリッジウッド&サン社製。
映画では、屋根の上はヴァイオリン弾きで、海の上がピアニストだったけれど、このカップMaritime cup 海の上のカップ&ソーサー、極めて稀なデザインのカップ。
深い海を想わせるコバルトの濃い青、船の装備の磨かれた真鍮を連想させる金彩。ソーサーの縁の金彩にはアクアジュールが打たれてハッチのようである。
カップの形状は、デイラーによれば、船の揺れからコーヒーのこぼれを防ぐ形状とあったがこれは間違いだ。
このカップの形状こそが、このカップの重要なテーマなのだ。カップの内側とソーサーの井戸にはピンクがあしらわれている。艶めかしくて暖かい。男性的なデザインに異質なピンクが船という男所帯に安らぎを与えるだろう。
カップの形の秘密を解き明かすのは、ソーサーの井戸に書き込まれた英文です。
"From out his helmヘルメット once Alexander poured Water水を注いだ in self denial 自己犠牲o'er the ground. Now quaffがぶがぶと飲む we gather at the social board-From out a helm.the fragrant tea sent round回し飲み"
この英文を理解する為、アレキサンダー大王のエピソードを紹介します。
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紀元前325年、インド遠征の帰り、大王の一行はマクラン砂漠に迷い込んでしまいます。皆、水に飢えた死の行軍となります。
ある兵士が、貴重な水をヘルメットに汲んで大王に捧げます。しかし、全ての兵に水が渡らないと知った大王は、大地に水を棄ててしまいます。
大王は、「私ひとりが、この水を飲んだならば、他の者たちは、どんな想いするだろうか」と。
この一言に兵士達は泣き、そして一斉に立ち上がり「いざ前進を!」と叫び「この王ある限り、疲れも渇きも、ものの数ではない」と彼らは勇気凛々快活に行軍を始めたという事です。
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さて、カップをひっくり返してみます。このカップ、アレキサンダーのヘルメット・兜の形なのです。
このカップの形、船という閉鎖社会での、高貴なるものの責務を、アレキサンダーの古事に譬えて説いているのです。
アレキサンダーのヘルメットのカップで薫り高いコーヒーを皆で廻し飲む。社員を何千人もリストラしながら「経営は何も悪くありません、社員と景気が悪いのです。」なんて経営がまかり通る今日この頃、男ってのはね!と、このカップは言っている様な気がするのです。美しいのは、このカップが持つ海の男のプリンシプルです。
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ところで海つながりで、蛇足だけれど、パソコン用語のログインだとかブログのログって海から来た言葉だって知ってますか?
船舶には、ログブック(航海日誌)が必ず備えられています。ログというのは、「丸太」のことで、昔、航海計器が未発達だった時代に、舳先から海面に木片(ログ)を投げ入れ船尾を通過する時間で船の速さを計測した事によります。船の速度が分かれば航行時間と掛ければ距離が出ます。航海日誌に現在位置を記録することは最も重要な事です。ログブックにログインする。パソコンにログインする、なんとなく分かって戴けるですよね。
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さて、そんなこんなで、新しい年が始まりました。
今年もダラダラと、こんな調子でアンティークカップの事など語ってまいります。
アラウンド還暦の団塊堂に、更なる同情と、できれば愛情も、お願いいたします。
今年も、どうぞ宜しくお願い申し上げます。